耳鼻咽喉科領域に関わるめまいの種類
耳鼻咽喉科領域に関わるめまいについて
もう少し詳しくお伝えしたいと思います。
1.メニエール病
めまいと聞くとこの病気を思い浮かべられる人も少なくないのでは無いでしょうか?一般の方は、ぐるぐる回るめまいが全てメニエール病だと思われている人が多いようですがそうではありません。
代表的な内耳(中耳のさらに奥)の障害が原因となるめまいの病気で、昔はめまいは脳の充血によって起こると考えられていましたが、1861年にフランスの医師メニエールが、初めて内耳の障害によってもめまいが起こることを論文発表し、それ以降この名前がつけられました。一般的に内科の先生は、めまいと言えばメニエール病とすぐに患者さんに説明されますが、実際にはメニエール病はそれほど多くなく、めまいを起こしている患者さんの1割程度です。
<原因>
内リンパ水腫(内耳の浮腫)が原因となって、耳鳴りや難聴を伴った回転性のめまい発作を繰り返し起こす病気です。しかし、内リンパ水腫がなぜ起きるのかが不明であるため治療をしても確実に治すことができませんでしたが、最近はストレスが原因で下垂体ホルモンAVPが過剰分泌され、内リンパ水腫を引き起こすとの説が主流です(実際にストレスが原因の患者さんが診察においても多いです)。しかし、他に原因が内耳にある炭酸カルシウムの塊(耳石片)がはがれ落ち、内耳の管を詰まらせたり耳石片がリンパ液の流れを乱し、それによって神経細胞が異常に刺激されてめまいを繰り返し引き起こすという説もあります。
<症状>
ぐるぐる回る激しいめまいが特徴です。また、耳の聞こえが日によって変わり、めまいが起こる前に耳が詰まってきたり、耳鳴りが起こります。
吐き気や嘔吐、冷や汗などの自律神経症状を伴うことも多く、めまいは30分間から数時間続く場合があります。めまいのおこる間隔は毎日のように起こす人から、数週間から数年に一度の人まで様々です。めまいが軽い時も、ふらつき感やものが流れる感じがします。
2.良性発作性頭位めまい症
めまいで診察を受ける患者さんの中で一番多い病気です。なでしこジャパンの澤穂希さんがこの病気にかかったことで一般の方にも広く知られるようになりました。名前の良性というのは経過が良く、次第に回復に向かう、という意味であり、多くの場合、一生続くことはありません。
起き上がる、姿勢を換えるなど頭の動きを伴う動作をきっかけに、突然起こる回転性のめまいです。
<原因>
原因は現時点で完全に解明されたわけではありませんが、耳の奥にある耳石(重力を感じる小さな石)が何らかの原因で脱落して三半規管内に入り、身体を動かすことによってその耳石が移動することで、めまいが起こると考えられています。ストレスや体調不良、寝不足もこのめまいを引き起こす要因と考えられています。
中高年の方に多く、頭部打撲をきっかけに発症するケースが多いです。
<症状>
しゃがんだりして頭をある位置に動かしたり、寝返りをうった際に激しくぐるぐる回るめまいが起こります。 ただし、頭の位置を変えたりすると症状が治まる場合が多いようです。時には嘔吐を伴うことがあり、恐怖を感じる人も少なくありません。なお、メニエール病のように耳鳴りや難聴が一緒に起こることはありません。
3.突発性難聴
突発性難聴は突然片方の耳だけ(まれに両耳)に発生する難聴で、「朝目が覚めると、耳が聞こえなくなっていた」というような状況です。放置すると高度の難聴が後遺症として残ります。この難聴と同時に耳鳴りそしてめまいが起こることが多いのです。突発性難聴のめまいはメニエール病と違い、一過性で繰り返さないのが特徴です。
<原因>
原因としては様々なものが考えられ、個々の方で特定することは現代の医学ではまだまだ難しいのが現状です。しかし、最近の研究では内耳の循環障害や単純ヘルペスや麻疹、インフルエンザなどのウイルス感染による障害が考えられています。
<症状>
中年の方に発症が多く、突然に聴こえが悪くなったり、場合によっては耳がふさがった様な感じになって発症します。また、耳鳴りやめまいが伴うことがあります。めまいの種類としては嘔気を伴うぐるぐる目が回る回転性のめまいから、ふらふらと感じる浮動性のめまいまで様々です。めまいはいずれ治まりますが、聞こえについては早期の治療をしなければ聴力が回復しない場合があります。
4.中耳炎によるめまい
中耳炎は鼓膜の奥(中耳)が細菌やウイルスが感染することによって起こる病気です。なんと、この中耳炎によってもめまいが起こる場合があります。
※中耳炎について、詳しくはこちらをご覧ください→中耳炎専門ホームページ
<原因と症状>
(1)内耳炎
中耳炎を起こした細菌やウィルスが、内耳にまで及んでしまい、それにより難聴、耳鳴り、めまいを起こします。
急激に聞こえが悪くなり、激しくグルグル回る回転性のめまいが起こります。
(2)慢性中耳炎による内耳障害
真珠腫性中耳炎によって発生した真珠腫が、内耳の骨を壊してしまうため、それに伴ってめまいが起こります。また慢性中耳炎によって耳だれがつづいていると、内耳が障害され、めまいが起こります。めまいは軽いものですが、時に嘔気を伴う回転性めまいを繰り返すこともあります。聞こえも徐々に悪くなってきます。
5.前庭神経炎
突然起こる、立っていられないほどの激しい回転性のめまい症。嘔気や嘔吐を伴います。はっきりとした原因は不明ですが、ウイルスが原因と考えられています。完全に治るのに長い期間を要することが多いです。
6.聴神経腫瘍
内耳から脳につながる聴神経に、腫瘍ができる病気、脳腫瘍のこと。良性がほとんどで悪性はほぼありません。MRIでの診断が有用。徐々に進行し、難聴、耳鳴、顔面のしびれ、めまいを伴います。腫瘍が小さい場合は経過観察のみとしますが、腫瘍が大きくなると、放射線治療や腫瘍摘出手術を行います。
7.耳の帯状疱疹
帯状疱疹とは、体の免疫力が落ちると、過去に水ぼうそう(水痘)にかかった時に、神経節に住み着いた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することで、一定の神経支配領域に紅斑を伴った小さな水疱が集まって出現する病気です。とくに水疱が耳介や外耳道に生じ、顔面神経が麻痺したり、めまい・難聴を伴うものをラムゼイ・ハント症候群と言います。めまいは比較的早期に消えますが難聴や顔面神経麻痺などの後遺症が残る場合が多いです。ステロイドや抗ウイルス薬を使用します。
8.内耳梅毒
梅毒トレポネーマによって内耳が炎症を起こし、難聴とめまいを引き起こします。メニエール病と似た経過をとります。片側から始まるが最後は両側が障害されます。血液検査で梅毒反応が陽性かどうかで診断が確定されます。内耳梅毒と診断される症例は現在でもめまいや難聴を訴えて受診する患者の5%前後と多いとの報告があります。ペニシリンとステロイドの併用が有効です。
※梅毒トレポネーマ:細菌の一種のこと
9.内耳奇形
生まれつき難聴が認められます。幼児期や成人になってからめまいが発症することも珍しくありません。診断にはCT、MRIが不可欠です。
10.外リンパ瘻
内耳奇形や中耳手術、耳かき外傷、鼻かみによる圧外傷、梅毒など様々な原因によって引き起こされます。難聴、耳鳴りの他に持続するめまい・ふらつき感が自覚されます。頭を高く持ち上げた状態で数日の安静を保つと自然と改善するケースが多いのですが、改善が無ければ手術となります。
11.上半規管裂隙症候群(じょうはんきかんれつげきしょうこうぐん)
1998年に発表された新しい概念の疾患。内耳の上半規管周囲の骨が欠損することで、大きな音を聞いたり、鼻かみなどの圧刺激が加わると、めまいやふらつき感が発症する。難聴や耳鳴りなど耳症状は比較的少ない。治療法は耳栓による防音を行ったり、鼓膜チューブを挿入して、圧刺激を回避しますが、その方法だけでは完全ではないため、最近では手術療法が積極的に行われてきています。